【データから読み解く】テレワークは企業の敵か?味方か?
出社回帰が進む今、テレワークは本当に生産性を下げるのでしょうか?最新の研究に基づき、生産性向上のエビデンスや創造性への影響を解説。職種やハイブリッド勤務など、成功の鍵となる条件を科学的に読み解きます。
コロナ禍のテレワークと出社回帰の流れ
2020年のコロナ禍をきっかけとして、テレワーク(リモートワーク、在宅勤務)を導入する企業が日本でも急激に増加しました。しかし、近年、テレワークを縮小し、オフィスへの出社義務を再開する出社回帰の流れが一部で生じています。代表的な例では、AmazonやX(旧Twitter)社などの世界的企業がテレワークの廃止や縮小を決定したと報じられました。
テレワーク縮小の背景としては、コミュニケーションや創造性の阻害による生産性の低下が挙げられることがあります。では、実際にテレワークは従業員の生産性(パフォーマンス)や職務満足度、離職などの指標にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
この記事では、最新の学術的知見に基づき、テレワークが企業に与える影響を読み解きます。
テレワークは敵か?味方か?
テレワークの効果を調べた初期の重要な研究として、Gajendranらによるメタ分析1が挙げられます(Gajendran & Harrison, 2007)。彼らは、それまでに発表された計12,883人の従業員のデータを含む46個の研究を集めて、テレワークが様々な指標に及ぼす影響を分析しました。その結果、テレワークで働く従業員ほど、職務満足度や生産性が高く、離職意図やストレスが低いという傾向が見られました。
さらに、2015年に発表された別の研究では、テレワークが生産性に及ぼす効果をRCT2と呼ばれる厳密な手法で調べました(Bloom et al., 2015)。彼らは、中国の大手旅行代理店であるCtrip社(現Trip.com社)を対象に、テレワークの効果を検証する実験を行いました。具体的には、コールセンター業務を担当する従業員を、テレワークをするグループ(テレワーク群)とオフィス勤務を行うグループ(オフィス群)に割り当て、9か月の間そのパフォーマンスを測定しました。
その結果、驚くべきことに、テレワーク群に割り当てられた従業員のパフォーマンスは、オフィス群の従業員よりも13%も高くなったのです。ここでは、パフォーマンスの指標が「応対した電話の数」などによって算出された客観的な指標であることも重要な点です。さらに、パフォーマンスのみならず、テレワーク群の従業員たちには、職務満足度の向上や離職率の低下などの効果も見られました。
この研究グループは、2021-2022年にも同じ企業でテレワーク+出社のハイブリッド勤務とオフィス勤務を比較するRCTを行い、世界的ジャーナルであるNature誌に論文を発表しています(Bloom et al., 2024)。このRCTでは、パフォーマンスの値には差がみられなかったものの、ハイブリッド勤務が職務満足度を挙げ、離職率を低下させる効果が見られました。
このように、多くの研究でテレワークのポジティブな効果が報告されているものの、一部ではネガティブな影響も報告されています。2023年に発表された研究(Gibbs et al., 2023)では、インドのIT企業で働く従業員1万人以上のコロナ禍によるテレワーク中のデータをコロナ前のデータと比較しました。その結果、テレワーク中には、勤務時間は増加していたものの、時間当たりの生産性は8-19%も低下していたことが明らかになりました。
著者たちは、その原因として、ミーティングやe-mailなどのコミュニケーションに時間が取られ、タスクに集中する時間が減ってしまったことなどを挙げています。この研究は、テレワーク導入が必ずしも良い影響を与える訳ではないことを示した点で重要です。テレワークのネガティブな影響を報告した研究は他にも複数存在します(e.g., Emanuel & Harrington, 2024)。
テレワークの効果は単純ではない
これまで見てきた研究をまとめると「テレワークはプラスの影響を与えることもあれば、マイナスの影響を与えることもある」という、なんとも心もとない結論に落ち着いてしまいそうです。しかし、ある変数XとYの関連性について矛盾する結果が得られた時には、その結果を生み出す第3の変数Zを考えることが重要です。こうした変数を「調整変数」と呼びます。XがYに与える効果が、Zの値が何であるかに応じて、プラスになったりマイナスになったりすることがあり得るのです。
テレワークの場合、いくつかの調整変数が考えられます(Anakpo et al., 2023)。第一に、テレワークの度合いの違いです。例えば、テレワークの悪影響を報告したGibbsらの研究では、コロナ禍による完全な在宅勤務が扱われています。一方で、テレワークのポジティブな効果を報告したBloomらの2つ目のRCTでは、週3日の出社と2日の在宅を組み合わせた形態が採用されていました。
この違いは、全く対面でのコミュニケーションが不可能な場合に比べて、出社とテレワークを組み合わせた働き方が効果的であることを示唆しているかもしれません。実際にある研究では、完全にオンライン上で作業するチームよりも初めに対面で話し合いをしてからオンラインに移行するチームの方が、効果的に信頼を醸成できることが示唆されています(Rocco, 1998)。
第二に、職種の違いも影響することが考えられます。Bloomらの最初のRCTで対象となったコールセンターのように個人で完結可能な業務と、研究開発のように複数人での協働が不可欠な業務では、テレワークの効果は変わってくるはずです。
実際にこのことを示唆する実験が存在します。2022年にNature誌に掲載された研究では、オンラインビデオ会議と対面での創造性の違いを調べました(Brucks & Levav, 2022)。その結果、対面に比べて、ビデオ会議では創造的なアイデアの産出が阻害されることが分かりました。これを踏まえると、複数人で新たなアイデアを創出するタイプの職務は、完全なテレワークとは相性が良くないと考えることができるかもしれません。
さらには、従業員の特性もテレワークの効果を左右し得ると考えられます。Bloomらの2つ目のRCTでは、テレワークが離職率を低下させる効果が、特に「非・管理職」、「女性従業員」、「通勤時間が長い従業員」において見られたと報告されています(Bloom et al., 2024)。これを踏まえると、個々の従業員の置かれた状況によって、テレワークの効果が異なる可能性が示唆されます。
まとめ
最新のメタ分析によると、テレワークは、生産性や離職意図などに、小さいがポジティブな影響を与えることが示唆されています(Gajendran et al., 2024)。したがって、職務や従業員の特性ごとに注意深く設計すれば、少なくとも限定的なテレワークの導入は、企業にポジティブな効果を与える可能性が十分にあると考えられます。このテーマはコロナ禍をきっかけに非常に多くの研究が行われており、今後の研究の進展を注視する必要があります。
この記事で紹介したような知見を踏まえると、テレワークに関する施策を検討する際には、自社の業務の特性や従業員の傾向を理解したうえで意思決定を行うことが有益だと考えられます。HAKASE for BIZは、研究者のスキルを活用し、貴社の状況を踏まえた質の高い意思決定をサポートします。
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引用文献
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Anakpo, G., Nqwayibana, Z., & Mishi, S. (2023). The impact of work-from-home on employee performance and productivity: A systematic review. Sustainability, 15(5), 4529. https://doi.org/10.3390/su15054529
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Bloom, N., Han, R., & Liang, J. (2024). Hybrid working from home improves retention without damaging performance. Nature, 630(8018), 920–925. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07500-2
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Bloom, N., Liang, J., Roberts, J., & Ying, Z. J. (2015). Does working from home work? Evidence from a Chinese experiment. The Quarterly Journal of Economics, 130(1), 165–218. https://doi.org/10.1093/qje/qju032
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Brucks, M. S., & Levav, J. (2022). Virtual communication curbs creative idea generation. Nature, 605(7908), 108–112. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04643-y
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Emanuel, N., & Harrington, E. (2024). Working remotely? Selection, treatment, and the market for remote work. American Economic Journal. Applied Economics, 16(4), 528–559. https://doi.org/10.1257/app.20230376
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Gajendran, R. S., & Harrison, D. A. (2007). The good, the bad, and the unknown about telecommuting: meta-analysis of psychological mediators and individual consequences. The Journal of Applied Psychology, 92(6), 1524–1541. https://doi.org/10.1037/0021-9010.92.6.1524
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Gajendran, R. S., Ponnapalli, A. R., Wang, C., & Javalagi, A. A. (2024). A dual pathway model of remote work intensity: A meta‐analysis of its simultaneous positive and negative effects. Personnel Psychology, 77(4), 1351-1386. https://doi.org/10.1111/peps.12641
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Gibbs, M., Mengel, F., & Siemroth, C. (2023). Work from home and productivity: Evidence from personnel and analytics data on information technology professionals. Journal of Political Economy Microeconomics, 1(1), 7–41. https://doi.org/10.1086/721803
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