【最新研究】メンタリング制度は、希望制/全員参加のどちらが良いか?
企業の人材育成プログラムは、希望制と全員参加のどちらの方がより高い効果を見込めるでしょうか?最新のランダム化実験の結果は、全員参加を支持しています。希望制では、最も支援を必要とする層ほど参加を見送ってしまうようです。
どちらが効果的?
近年、人的資本という言葉が定着し、企業による人材への投資が活発になっています。新人研修、リスキリング、メンタリングなど、手法は多岐にわたります。
新しい取り組みを始める際、担当者が共通して直面するのは、プログラムを義務にするか、本人の意思に任せるかという選択でしょう。義務参加にすれば忙しい現場の反発を招き、形骸化する恐れがあります。一方、任意参加にすれば参加してくれる人が少なくなってしまうかもしれません。自発性を重んじるべきだという通説は、果たして正しいのでしょうか。
希望制の「落とし穴」
この問いに対し、米国にあるコールセンターの実地データを用いた研究があります(Sandvik et al., 2025)。コールセンターでは、問い合わせがシステムによってランダムに割り振られるため、担当者は案件を選べません。そのため、環境の偏りではなくワーカー本人の能力ややる気を問い合わせの処理件数から測るのに適していました。ここで、新たなメンタリング制度を義務として導入する場合と任意参加にする場合で、ワーカーの生産性の変化を比較する実験が行われました。
実験では、入社してきた新人を(1)メンタリングへの参加希望を自由に選べるグループと(2)必ず希望しないといけないグループへランダムに振り分けました。その後、それぞれのグループの希望者の中で(グループ(2)は全員)、実際にメンターが付く人と付かない人をランダムに決定しました。こうしたランダム化により、本人のやる気などの要素を排除し、制度そのものの効果を測定できます。
その結果、強制参加のグループではメンタリングによる生産性の向上が確認された一方で、任意参加のグループでは、自ら希望してメンターを付けた人たちの間でも明確な改善は見られませんでした。データから、任意参加がうまく機能しなかった理由は、参加していれば最も大きな成長が見込めた層が、任意参加の枠組みでは辞退を選んでしまっていたからだと分かりました。支援を必要としている人ほど、自信のなさや日々の忙しさから参加を見送ってしまう傾向があります。また継続率も、自発的に参加した人より、最初から仕組みとして組み込まれた強制参加の人たちのほうが高いという結果が出ています。
これらの知見は、対象者全員にメンタリングに参加してもらうことの重要性を示唆しています。従業員の自主性に任せることは一見良い配慮に思えますが、結果として成長の機会を奪うことになりかねません。もちろん、現実的には参加者の負荷を無視することはできませんが、それでも完全な任意参加にするのではなく、原則参加とした上で個別の事情を汲むなどの設計の工夫が求められるでしょう。
まとめ
このように、学術研究を参照すると、具体的な打ち手につながる解像度の高い知見を得られます。この研究の価値は、「強制が良い/任意が良い」という一般論ではなく、なぜ任意参加が失敗しうるのかを丁寧なランダム化実験を通じて分解している点にあります。自社でここまで大規模な実験を行うのは難しい場合が多いですが、こうした学術的な知見を、各社独自の簡易サーベイと組み合わせることが有望でしょう。
今回の研究結果をもとに、現在の社内研修の参加率やその後の成果を振り返ってみてはいかがでしょうか。例えば、研究の効果に偏りを感じているなら、参加の設計を見直すことで状況が改善する可能性があります。具体的な診断や設計の変更について、お手伝いできることがあればお知らせください。行動科学に専門性を持つ博士人材の観点から、参考になる学術研究や、追加で得るべきデータの具体案についてご提示できます。
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引用文献
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- Sandvik, J., Saouma, R., Seegert, N., & Stanton, C. (2025). Should human capital development programs be mandatory or voluntary? Evidence from a field experiment on mentorship. Management Science. Advance online publication. https://doi.org/10.1287/mnsc.2024.07524